大阪地方裁判所 昭和43年(ヲ)1563号 決定 1968年6月14日
申立人 芳賀機工株式会社
右代表者代表清算人 細川年行
右代理人弁護士 赤木淳
被申立人 株式会社布施水圧鍛工所(旧商号、布施水圧鍛造株式会社)
右代表者代表取締役 原田源治
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
申立の趣旨
大阪地方裁判所執行官は、申立人より被申立人に対する同裁判所昭和四一年(ワ)第二九八八号事件の執行力ある判決正本に基づき、被申立人に対し追加強制執行をせよ。
一 申立の原因
1 申立人は、前掲債務名義に基づき、大阪地方裁判所執行官に申立をし、昭和四三年二月七日被申立人占有のクレーン一台を差し押えた。ところが第三者である株式会社朝日弾電機製作所より異議の訴(昭和四三年(ワ)第七九八号)が提起され、附随の申立により、同月一五日右有体動産に対する強制執行が停止せられた。
2 申立人は、同年四月一三日やむをえず執行官に対し、他の動産に対する差押執行の申出をしたところ、さきの差押の目的物の評価が請求債権額(約七八万円)より大きいことを理由に執行の申出を拒絶せられた。
3 しかしながら、債権者は債務者のいずれの財産からでも、即時弁済を請求しうるのであるから、すでになした差押が進行できなくなったときは、債務者の他の動産の差押を求めうることは当然でなんら超過差押の禁止にふれるものではない。けだし、競売が進行できない以上債権の満足を得るうえからは差押がないのと同じであるし、さりとて裁判の敗訴の可能性が非常に高いものでないかぎり、さきの差押を解除することもできないからである。しかも、被申立人は刑事事件に連座し、前科を有するものであり、かつて会社を倒産させたこともあり、現に社名を変更して債権者をごま化す意図がはかられるのみならず、今日の急激な経済情勢の変化に、第三者異議訴訟の進行がついてゆけない。したがって、超過差押を理由とする追加差押の拒絶は明らかに不法不当であるから是正を求める。
三 当裁判所の判断
1 申立の原因1および2の事実は本記録上明らかである。
2 そこで、同3の事由について検討しよう。
(一) 債権者は債務者の責任財産に属するいずれの財産に対しても執行しうることは申立人主張のとおりではあるが、それには一定の限度が法定されている。すなわち、民事訴訟法五六四条二項は、差押は執行債権の満足および執行費用の弁償に必要な範囲をこえてすることは禁じられているので、超過差押の結果を招くような追加執行は許されないといわねばならない。
(二) 申立人は、強制執行停止中の物件は、債権の満足をうるうえからは差押がないのと同じであるうんぬんと主張するけれども、第三者異議の訴で、第三者が常に勝訴するとはかぎらず、敗訴することもかなりあることは顕著な事実である。本件の事例で、将来かりに第三者が敗訴、その言渡までの間に申立人の求めにより追加執行をしていたとした場合、超過差押の結果を招来することは明らかである。
(三) 申立人は、被申立会社代表者は刑事事件に連坐しているとか、かつて会社を倒産させたことがあるとかなどいって、追加執行の必要性があると主張するけれども、本件のような事例で、差押の範囲の拡大をはかるためには、当該執行手続において、適法な配当要求の申出が現実になされていることが必要であって、単なる配当要求申出の気配が感ぜられる程度で許すべきではないと解するのが相当である。
(四) 本件執行手続上適式な配当要求申出のなされている事実についてはなんらの証明がないので、執行官が追加執行の申出を拒絶したのは相当であったというべきであるから、本件異議申立を却下することとし、申立費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 本井巽)